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マナーの悪さが指摘される大阪の自転車事情。大阪市は、繁華街にあふれる違法駐輪対策に躍起だが、今度は、運転マナーの改善に乗り出す。市内で実施した調査では、歩行者の7割以上が自転車に危険性を感じていたことから、自転車を押して歩くよう呼び掛ける社会実験を来年度初めて実施する。果たして歩行者と自転車の“共存”は進むのか--。【平川哲也】
大阪府内の自転車台数は651万台(08年)。総保有台数は東京都(899万台)に次いで2番目。人口1人当たりの台数は0・74台で、0・77台の埼玉県(543万台)に次ぐ2番目だ。だが、歩行者の間を猛スピードで走るなどマナーの悪さが指摘されている。国土交通省大阪国道事務所が昨年、大阪のメーンストリート御堂筋について行ったアンケート(回答962人)でも「歩行者や自転車が混在し歩きにくく、危険である」との問いに、73%が「問題」か「やや問題」と答えた。
大阪の中でも、歩行者と自転車の「錯綜(さくそう)状態」が顕著なのが、この御堂筋だ。同事務所の05年の通行量調査(午前7時~午後7時)では、歩行者数は心斎橋周辺の御堂筋が2万5109人で府内トップ。自転車の交通量も増え、心斎橋周辺で同じ時間帯の自転車通行量は5820台(09年)。77年(746台)の約7・8倍に上る。標識で自転車の歩道走行が認められている。車道が南向き一方通行のため、北へ向かう自転車が集中するのも錯綜の一因だ。
このため大阪市は、御堂筋で自転車を押して歩くよう呼び掛ける社会実験を1カ月程度行う方針を固め、人件費など2500万円を予算計上した。通行人に声掛けやチラシで理解を求め、急いでいる人は別の道に誘導する。詳細な実施場所や時期は、大阪府警などと協議する。
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一方、違法駐輪は撤去と駐輪の“いたちごっこ”を繰り返しながらも、市内全域では減少。07年度の約5万台から昨年2月は約3万9000台に減った。市は地下鉄利用を促すため、市営地下鉄の1駅間を現行の200円から100円にする値下げも検討している。
毎日新聞 2011年2月9日 大阪夕刊
自転車事故:7割が交差点で発生 歩道走行、車の死角に
自転車事故の7割は交差点で発生し、その主要因は自転車の歩道走行とみられることが、元建設官僚で住信基礎研究所の古倉宗治研究理事の分析で分かった。自転車を除く交差点での事故率は全体の4割強にとどまり、自転車の事故率は突出。大半は車との事故で、歩道を走る自転車が交差点に進入した際、車道走行時よりも車の死角に入りやすいためだという。自転車の車道走行は危険視されがちだが、むしろ歩道走行の方が危険性が高い実態が浮かんだ。
古倉氏が警察庁所管の財団法人「交通事故総合分析センター」に自転車事故の発生場所の調査を依頼したところ、01年の全国の自転車事故17万5223件のうち71%に当たる12万4574件は交差点で発生。自転車を除いた交差点事故の割合は43%にとどまった。警察庁によると、09年でも自転車事故15万6373件のうち交差点での発生は11万3761件で、73%にのぼる。
古倉氏は、国土交通省国土技術政策総合研究所が02~05年、東京都のある幹線道路の約15キロの区間で行った車と自転車の事故調査についても検討。区間内の交差点で、左折車と直進自転車の事故は計26件あったが、うち25件は自転車が歩道走行で、車道走行は1件だけ。車が脇道から幹線道路に出た際、左右からの自転車と出合い頭に衝突した事故でも、計79件中71件は自転車が歩道走行していた。
こうしたデータを基に古倉氏は、交差点を曲がる車のドライバーにとって歩道を走る自転車はガードレールや電柱、街路樹などで死角に入ることが多く、脇道から出てくる車にとっても角の塀や建物で見えにくいため、事故に遭う確率が高いと分析。これに対し、車道を走る自転車は、右左折するドライバーに見えやすく、脇道から出てくる車にとっても、歩道と比べて角の塀や建物からやや離れていることから死角が少ないとみている。
死角は事故の主要因で、同分析センターが03年まで9年間にわたり約300件の車と自転車との事故を調べたところ、「相手が見えなかった」「見落とした」と証言したドライバーは79%に上った。
交差点以外での自転車の事故5万649件のうち、車道上での「車やバイクによる追突」や「追い越し時の接触」は5404件で、全体の3%にとどまっていた。古倉氏は「ふらつきなどの危険がある高齢者や幼児を除き、自転車は車道を走った方が事故は大きく減少するはずだ」と指摘している。【馬場直子】
【ことば】自転車の走行ルール 道路交通法によると原則として車道の左側端を走らなければならない。歩道を走れるのは例外で(1)標識などで認められている(2)13歳未満や70歳以上らが乗る(3)工事などでやむを得ない--場合に限られる。歩道では車道寄りを徐行しなければならない。
毎日新聞 2011年1月6日 2時30分(最終更新 1月6日 9時18分)
銀輪の死角:年間1000人弱の事故死者、先進国で突出 交差点の専用道整備急務
自転車事故の7割超が交差点に集中し、その主要因は自転車の歩道走行にあるという分析結果が明らかになった。国内の自転車乗用中の死者は年間 1000人近くで先進国の中で突出。欧州各国では道路幅が狭くても交差点付近の車道に自転車用通路を確保するなど対策が進んでおり、国内でも同様の対策が 急務となっている。【馬場直子、北村和巳】
元建設官僚で住信基礎研究所研究理事の古倉宗治氏によると、車のドライバーにとって自転車の歩道走行は街路樹などで死角となるだけでなく、自転車 の存在感を薄れさせる「心理的死角」を生む。自転車の利用者も車への意識がにぶるという。このため、車道より歩道を走行する自転車の方が事故に遭う確率が 高い、というのが古倉氏の分析だ。
自転車の歩道走行は交通事故死者が史上最悪になった70年、車との接触事故を減らすため例外的に導入された。だが、40年余を経た現在、逆に事故多発の要因になるという事態が生じている。
国内での自転車乗用中の死者(事故後30日以内)は、80年の1366人から08年は971人と約3割減だが、同期間にフランスは715人から148人へと約8割も減少。英国やドイツ、オランダも3分の1近くに減り、先進国の中で日本の死者は飛び抜けて多い。
欧州では自転車の車道走行を徹底する。さらにロンドンなどの主要都市では、自転車用通路を設置できるほど道路幅が広くなくても交差点やその付近に だけ車道に自転車のマークを付けて通行部分を明示したり、車の停止線の前に自転車の停止位置を設けている。古倉氏は「こうした先進事例は日本でも参考にな る。自転車の存在を認識させることで事故は大幅に減らせる」と指摘している。
◇歩道走行、出合い頭も危険
交差点で車が右左折する際に自転車と接触する事故だけでなく、車が路地から大通りに進入する際に起きる出合い頭事故でも、自転車にとっては車道より歩道を走行する方が危険だ。
国土交通省国土技術政策総合研究所が東京都内のある幹線道路で02~05年に行った自転車事故調査によると、脇道から出てきた車と幹線道路を走る 自転車との出合い頭事故計79件のうち、車道走行は8件だけ。歩道走行の71件をみると、車道寄りの走行が25件だったのに対し、建物寄りは46件。同じ 歩道上でも、ドライバーにとって死角になりやすい建物寄りを走行する方が、より事故の危険性が高かった。
警察庁によると、09年の自転車事故15万6373件の54%、8万4508件が、車やバイクなどとの出合い頭事故となっている。
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◇自転車乗用中の死者(事故後30日以内)
80年 08年
日本 1366 971
米国 965 716
ドイツ 1338 456
フランス 715 148
英国 316 117
オランダ 425 145
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情報やご意見、体験談をメール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、手紙(〒100-8051毎日新聞社会部「銀輪の死角」係)でお寄せください。
毎日新聞 2011年1月6日 東京朝刊
銀輪の死角:京都御苑、「お堀」に転落防止対策 覆いや柵設置へ協議
京都市が、明治天皇ゆかりの京都御苑(上京区)外周約4キロの溝の一部について、木の板で覆ったり柵を設けたりする自転車転落防止対策を検討して いる。この溝は京都御所や京都迎賓館を含む御苑を囲み、塀や石垣と一体。深さ、幅とも50センチもあることから「お堀」とも呼ばれ親しまれている。市は景 観に配慮しながら、御苑を管理する環境省のほか宮内庁や皇宮警察と詰めの協議を進める。
御苑は、東京に移った明治天皇が1877年に京都を訪れた際、周辺の荒れ果てた様子を悲しんだことをきっかけに府が保存事業を開始。天皇や財界からも寄付が集まり、83年までに整備され、ほぼ現在の形になった。
溝の大部分は自転車も通行可能な歩道に接するが、北側や西側では歩道の幅が最小で約90センチしかない。バス停付近では乗客らが滞留する。自転車 の利用者から「人とすれ違う際に転落した」、通行人らからは「自転車とぶつかりそうになった」といった苦情が寄せられていた。市は昨年から、御苑北西角の 烏丸今出川バス停周辺で、溝の上を覆い、柵を設けることを環境省京都御苑管理事務所と協議。御所や迎賓館には皇族や要人が訪れるため、覆いは不審物が隠せ ないよう取り外し可能にする。景観保全のため、柵は間伐材を用いる。
担当の京都市建設局は来年度当初予算案として350万円を要求。認められれば2月市議会に提案する。【田辺佑介】
毎日新聞 2010年12月20日 大阪夕刊
銀輪の死角:安全も売る自転車店 顧客に交通ルール指導--東京・練馬
◇練馬の10店主「資格」取得
自転車と歩行者の事故がここ10年で3・7倍に急増する中、街の自転車店が販売時に交通ルールを教える取り組みを進めている。東京都練馬区で自転車店を経営する小沢豊さん(61)は、地域の同業者9人に呼び掛け、交通安全協会(安協)の「自転車安全教育指導員」の資格を取った。自転車店は減る傾向にあるが、「安全も売りたい」という活動に、事故減少につながるとの期待が寄せられている。【馬場直子】
「歩道は歩行者のもの。ベルは鳴らさないで」。新しい自転車を買った顧客に、そう声を掛ける小沢さんは、交通課勤務も経験した元警察官。商売好きが高じ、庶民の足として利用される自転車に注目して77年、「オザワサイクルショップ 緑の国」を開業した。子供たちには「白線の内側を走るんだよ」と優しく諭す。
自転車事故が増えだした10年ほど前、店頭で交通ルールを教え始めた。日課の夜の散歩で、無灯火や2人乗りなど自転車の交通違反が多いと気付いたのがきっかけだ。違反をすれば事故の確率が高まる。09年の自転車事故のうち自転車側に道路交通法違反があったのは67%、死者が出た事故では74%に上る。
小沢さんは長年、地元小学校の依頼で自転車講習会に参加してきたが、児童も保護者も、左側走行など基本ルールを知らなかった。「もっと詳しい知識を持って、販売時に伝えられないか」。自転車安全教育指導員の資格があることを昨年に知り、今年の初夏、練馬区の同業者とともに指導員の資格取得のための講習を受けた。
指導員は09年末で全国に1万6786人。全日本安協や各都道府県安協で道路交通法や自転車の保険などについて講習を受けて認定されるが、自転車店主は少ないという。一方、街の自転車小売業者は量販店に押され、国の統計では97年の1万5551業者から07年には1万1467業者に減った。全日本安協の自転車担当者は「販売時や点検・修理時に自転車店に交通ルールも教えてもらえれば、事故を減らす一つの力になる。こうした動きが広がってほしい」と話している。
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毎日新聞 2010年12月3日 東京夕刊
銀輪の死角:専従で自転車対策、京都府警が全国初設置 学生らに安全教育
京都府警は27日、社会問題化している自転車による事故防止に専従で取り組む「自転車交通安全対策係」を交通事故防止対策室内に新設すると発表した。29日に組織改編する。府警によると、自転車事故防止の専従班設置は全国初。自転車を利用する学生が多く、街路が格子状で交差点の見通しが悪い京都の特性を踏まえ、対策を強化する。
府警によると府内で09年に起きた自転車同士の事故は52件、対歩行者の事故は54件。対自動車を含めた人身事故は3280件と全事故の21・9%を占め、徐々にその比率が高まっている。
府警は、無灯火や2人乗りなどの違反者に指導書を手渡すようルール改正したり、安全教育を受けた小学生に「自転車運転免許証」を交付する取り組みを進めている。しかしマナーが改善されないため、専従の係を設けることにした。
自転車交通安全対策係は8人態勢で発足。安全教育や街頭啓発に集中してあたり各大学での安全教育、観光客への注意喚起も進める。【林哲平】
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毎日新聞 2010年11月28日 東京朝刊
銀輪の死角:事故の被害者遺族が決意「体験語る場つくりたい」 加害者には猶予判決
自転車事故で母親を亡くした東京都稲城市の会社員、東(あずま)光宏さん(40)が12日、東京地裁で開かれた加害者男性の判決公判に臨み「被害者のグループをつくり、自分の体験を伝えて共有したい」と決意を語った。東さんは被害者参加制度を利用し、公判で加害者への厳しい処罰を求めたものの、判決は執行猶予付き。「今は気持ちの整理が付かないが、今後、同じ立場の人が何をしていいか分からず不利な状況にならないよう、体験を語り合う場を設けたい」と話した。【馬場直子】
東さんの母令子さん(当時75歳)は1月、大田区の交差点で横断歩道を渡ろうとして、赤信号を無視した男性会社員(43)のスポーツ用自転車にはねられ、頭を路面に強く打ち死亡した。
「暗闇にいるようだった」。東さんは事故からの10カ月を振り返る。自転車事故の被害者団体はなく、気軽に相談できる窓口もなかった。加害者の責任追及もどうすればいいか分からず、3月に「全国交通事故遺族の会」に連絡したが、会員に自転車事故の被害者や遺族は見当たらず、当初は情報を得られなかった。
加害者の男性は8月に重過失致死罪で在宅起訴された。東さんは被害者参加制度を利用して公判に立ち会うことを決め、公判での意見陳述を巡り、検事や「遺族の会」の戸川孝仁副会長(66)から助言を受けた。それでも遺族の体験を共有する場はなく、「自転車事故の被害者や遺族は取り残されている」との思いは消えなかった。
10月7日の初公判と22日の第2回公判で、東さんは被告人質問に立ち、男性を厳しく追及して実刑を求めた。だが、11月12日の判決で前田巌裁判官は「最近、自転車事故が多発し、同種事故を防ぐため厳しい処罰で警鐘を鳴らす必要がある」と指摘する一方「無謀運転ではない」などとして、男性に禁固2年、執行猶予3年(求刑・禁固3年)を言い渡した。
法廷で東さんは大きくため息をつき、前田裁判官が説諭で「ご遺族には不満かもしれませんが」と述べた際も、思わず「不満です」との言葉が口をついた。閉廷後、東さんは「人の命を奪ったのだから厳しい判断をしてもらわないと」と話し、検事に控訴を求めた。
一方で「裁判に参加したことで思いが伝わったこともある。体験を語り合う場を設けたい」と述べ「遺族の会」に入会して自転車事故の被害者や遺族に呼び掛け意見交換する意向を示した。
戸川副会長は「自転車事故は増えており、被害者救済の活動は必要。それには当事者がけん引役になるべきで、東さんには中心になって活動してほしい」と話している。
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毎日新聞 2010年11月13日 東京夕刊
銀輪の死角:反響特集 安全、どうつくる
自転車と歩行者の事故がここ10年で3・7倍に急増する中、自転車側に高額賠償を命じる判決が相次ぐなど、影響がじわりと広がっている。こうした問題を取り上げた毎日新聞のキャンペーン「銀輪の死角」に、手紙やファクス、メールなどで多くの反響が寄せられた。当事者や読者の体験と思いを紹介するとともに、識者インタビューを交えながら、自転車にも歩行者にも優しい社会のあり方を考える。【馬場直子、北村和巳、森禎行】
◇交通弱者に配慮を--福岡市の大学職員・内海泰弘さん(39)
福岡市の東にある福岡県篠栗(ささぐり)町の職場まで約7キロの道のりを毎日、自転車で約25分かけて通勤する内海さんは、車に何度もひやりとさせられ、ついに今年9月、事故に遭った。「日本は交通弱者への配慮が足りない。車は自転車に、自転車は歩行者に、もっと気を配るべきだ」と訴える。
学生時代から自転車好き。「乗ると心身がすっきりする」と言う。だが、交通ルールに従って車道左側を自転車で走りながら実感するのは、車のドライバーの自転車に対する認識不足だ。追い越せずにいらいらしている車からクラクションを鳴らされたり、幅寄せされたり。「歩道を走れ」と怒鳴られたこともあった。
危険を感じて大通りを避け、ヘルメットもかぶるようにした。それでも9月、交差点を左折しようとしたワゴン車と歩道の縁石に自転車ごと挟まれ、右手足に打撲の軽傷を負った。身をもって危険を知り「自分の子に『交通ルール通り車道を走るように』と指導することは、正直できない」と話す。
以前に1年滞在した米国では、歩行者や自転車を無理に追い越す車はなかった。「日本は意識の面で(米国に)負けている気がする。もう少し、弱者に優しい社会になってほしい」と語った。
◇保険に入っていたら--名古屋市の自営業男性(48)
9月上旬、名古屋市内で自転車に乗っていた自営業の男性は、別の自転車と衝突して頭を打って以来、物事に集中できなくなった。相手は保険に加入していなかった。症状は今後どうなるのか、治療が必要なら相手に費用を負担してもらえるのか、将来に不安を抱える。
事故は、自転車で取引先に向かう途中で起きた。JR名古屋駅近くの交差点で高齢男性の自転車と衝突した。男性によると、歩道から車道に出て横断歩道を横切ろうとしたところ、右側から渡り始めようとした相手の自転車とぶつかり転倒、後頭部を路面に強く打ち付けたという。
自分で費用を負担して病院の診断を受けた結果、異常はないと言われた。しかし、考え事をしようとしてもまとまらず、興奮すると頭がズキズキ痛む。
精密検査を受けたいが、ためらっている。治療費を相手に負担してもらえるか分からないからだ。交渉は誰も助けてくれず、当事者同士で何度か話をしたが、白熱してくると頭痛がして、十分な話し合いはできていない。
自転車事故は責任があいまいになることも実感した。「相手が保険に入っていたら、(その後の処理は)もっと簡単だったはず。車の事故なら、みんな保険で対処されるのに」と、肩を落とした。
◇「あかん」と言おう--大阪府寝屋川市の井上三男さん(80)
勤めていた会社を20年前に退職した井上さんは、大阪府寝屋川市内で自転車の交通ルール違反に対する声掛け運動を続けている。これまでに無灯火で約5000人、信号無視で約2000人に対し、ルールを守るよう注意した。
「小さな積み重ねだが、ルールを定着させ、他人を思いやる気持ちを広めたい」と力を込める。
退職後、街を歩く余裕ができて気付いたのは、自転車の無謀運転が多いことだった。犯罪や非行の防止に取り組む法務省の「社会を明るくする運動」に参加したが、青少年に社会のルールを守らせるには、身近な交通ルールの順守を徹底させることから始めるのが効果的だと考えた。
当初、自宅周辺が中心だった活動範囲は、02年にボランティア団体をつくって以降、市内全域に広がった。協力する仲間は現在約30人。自転車の夜間点灯を呼び掛ける縦15センチ、横30センチのプレートを手作りし、活動時に乗る自転車の前かごに張っているほか、学校の自転車置き場や自転車販売店の店頭に張るよう要請している。
こわもての男性に肩をつかまれたこともある。それでも「モラル低下を嘆くのは簡単だが、『あかんもんはあかん』と声を出す勇気が大切」と話した。
◇通行のルール
自転車は道路交通法上、車と同じ「車両」なので、車道の左側を走るのが原則。「歩道通行可」の標識がある場合や、13歳未満か70歳以上の人が運転する場合、路上駐車で車道がふさがれるなどやむを得ない場合には歩道を走れるが、車道寄りを徐行しなければならない。徐行とは、すぐに止まれるスピードのことで時速7キロ前後とされる。
自転車用通路には(1)車道や歩道と柵や縁石で分けた「自転車道」(2)車道に線を引くなどして区切った「自転車レーン」(3)歩行者も通れる「自転車歩行者道」(歩道の一種)--がある。(1)と(3)は道路の左右どちらを走るか決まりはないが、対面通行を避けるため左側通行が望ましい。(2)は車線の一種なので左側通行しかできない。
◇自転車の保険
自動車には、事故で相手を死傷させた場合に備えて強制的に加入させられる自動車損害賠償責任(自賠責)保険があるが、自転車にはない。自転車専用の保険は団体向けなどに限られており、自転車事故で相手を死傷させたり物を壊した場合に備えるには、任意加入の「個人賠償責任保険」がある。火災保険や自動車保険などの特約として付けるのが一般的。保険料や補償上限額は、保険の種類による。自分のけがに備えるには「傷害保険」がある。
これらとは別に、自転車店で、資格を持つ整備士が安全と認めた自転車に張る「TSマーク」には、自分や相手が死傷した場合に備えた保険が付く。有効期間は1年だが、整備料も含み1000~1500円程度払えば、対人死傷で最高2000万円を補償する。
◇「反則金」導入してもよかった--日本道路交通情報センター理事長・矢代隆義さん(61)
自転車事故は交通事故全体の2割、出合い頭事故に限ると4割を占める。自転車の走行秩序が乱れているからで、その原因は走行環境の不備。対策は何より自転車の走行スペース確保だ。従来、国は車の事故・渋滞対策に手いっぱいで、自転車に手が回らなかった。
道路交通法の改正は、自転車が自由に歩道を走っていたので、ルールを明確にし無秩序状態改善の入り口にしようとした。取り締まりの上でも重要だった。
自転車の利用者は子供から高齢者までいて、使い方もさまざま。これは日本の文化で、「大人の乗り物」とされる欧州と異なる。車道走行が原則だが、一律化は非現実的。歩行者優先を徹底して例外的に歩道を走らせることは必要で、悪いことではない。
04年から車の交通量が減る一方、道路建設は進んでおり、走行空間の再配分が可能になっている。長期的には自転車の走行スペースは生み出される。
交通ルール教育は時間がかかるが、繰り返していけば必ず状況は改善する。学校でもう少し時間をとってもらい、指導者を含め体系的に取り組めればいい。警察の取り締まりも不可欠だが、社会が受け入れるかという問題があり、現時点では「悪質な違反を許さない」というやり方が正解だ。
道交法改正時、自転車にも反則金納付の行政処分を行う「交通反則通告制度」の導入を探る議論があったが、大量の違反を一律に取り締まる状況ではないと判断した。今考えると実現しておけばよかったかもしれない。大々的な対策の中でなら社会も受け入れた可能性がある。(談)
◆読者の主な声
◇マナー教育が必要--盛岡市の家事手伝い、西野章子さん(33)
歩行者の感じる怖さと不安を記事にしてもらい感謝している。近所に小中高校があるが、(自転車を)横並びで運転するなどマナーが悪い。社会人になる前に教育すべきだ。
◇安心できる歩道に--千葉県八千代市の会社員、藤方厚子さん
近所の高齢者が歩行中に自転車事故に遭い、重傷でつえが手放せず職も失った。相手は逃げて泣き寝入りだ。高齢者や幼児、障害者の人たちにも安全で安心な歩道にしてほしい。
◇右側通行は危険--大阪府門真市の自営業、土居武晴さん(47)
車道を走る自転車の「右側通行」が危ない。通勤時は狭い車道の左側を自転車で走っているが、正面から逆走の自転車、後ろから自動車という恐怖をほぼ毎日体験している。
◇授業に取り入れて--東京都杉並区の無職、榊原茂典さん(63)
自動車免許を持たない未成年に法律をどう伝えるかが問題。学校の授業に入れるべきだ。習わないまま「道路交通法に違反した」として処分や罰金を出しても、反発が出る。
◇警察は指導徹底を--群馬県館林市の無職、久田春枝さん(77)
夫が自動車事故を起こしたので、自分は事故を起こすまいと自転車を使っている。乗って初めて、学生などの運転マナーの悪さを感じた。警察の指導が甘いのも問題だ。
◇罰則、過料が効果的--愛知県日進市の会社員、森貞夫さん(55)
罰則がないと、人は守らない。歩きたばこに条例で過料を科す形を、自転車にも取り入れるべきだ。取り締まり要員が必要になるが、雇用創出にもつながるはずだ。
◇すみ分ける道路を--名古屋市の会社員、浅井寿生さん(30)
自転車には体を守るエアバッグがないなど、多くの利用者は車道走行を危険と感じている。取り締まりだけでなく、自転車と自動車、歩行者がすみ分ける道路整備が欠かせない。
◇法と現状に大きな差--堺市の大学院生、近岡辰次さん(63)
道路交通法で「原則車道走行」とのことだが、車道を走ると大阪府警から「危険なので自転車は歩道走行を」と指導される。法律と現状に差があり、「原則車道」に違和感がある。
◇販売時に保険料を--福岡県春日市の大学院生、林直行さん(66)
自賠責保険の自転車への導入は賛成だが課題もある。ナンバーがないし事故後に走り去る人が多い。自転車販売時に保険料を徴収し自治体が管理すれば効果的かもしれない。
◇自賠責導入には反対--熊本市の高校教員、堀哲郎さん(45)
自転車の自賠責保険導入に反対だ。手軽に使えるものなのに(制度で縛ると)利用促進を制限する。加入手続きが煩雑なら廃棄自転車も増える。大規模な制度は不要だ。
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◇自転車を巡る主な動き
1919 街路の構造や、維持・修繕・工事方法などを定める「街路構造令」が制定され、自転車道の設置を規定
38 旧東京市板橋区に自転車道を設置
58 道路の新設や改築の際に道路構造の基準を定める「道路構造令」制定。自転車の車道通行量に応じて車道幅を広くするほか、自転車や荷車などのため「緩速車道」も規定
59 自転車産業協会が建設相(当時)に自転車専用道路設置の要望書提出
60 道路の交通安全や交通円滑化を図るための「道路交通法(道交法)」制定。自転車の車道走行を規定
70 道交法改正。自転車は公安委員会が指定する歩道を通行可能に
〃 道路構造令改正。自転車・歩行者とも通行できる「自転車歩行者道」を規定
〃 「自転車道の整備等に関する法律」制定
78 道交法改正。自転車の歩道通行の要件規定
98 「自転車利用環境整備モデル都市」を指定
2001 道路構造令改正。自動車と自転車の交通量の多い道路での自転車道の原則設置を規定
07 道交法改正(08年施行)。児童や高齢者、やむを得ない場合の自転車の歩道通行容認
08 「自転車通行環境整備モデル地区」を指定
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■人物略歴
◇やしろ・たかよし
元警視総監。警察庁交通局長時代の07年、自転車の歩道走行ルールを明確化する道路交通法改正に携わった
毎日新聞 2010年11月7日 東京朝刊
銀輪の死角:衝突で高齢者けが、入院・見舞金80万円 まさか、我が子が加害者に
◇調停の簡裁「右側通行が悪い」
自転車と歩行者の交通事故がここ10年急増する中、子供と高齢者の自転車同士の衝突でトラブルになるケースも出始めた。大阪市のパート勤務の女性(50)は、当時11歳だった長男が自転車で走行中、高齢者の自転車とぶつかり相手を骨折させる事故を経験した。長男は保険に未加入で、右側通行の交通違反を指摘され、計約80万円の賠償金を支払った。女性は「子供が事故の加害者になるとは思いも寄らなかった」と話し、「自転車利用者はもっと交通ルールを知る必要がある」と訴えた。
女性は00年10月のある日の夕方、長男、長女と3人で、大阪市天王寺区の道路の右側歩道をそれぞれ自転車に乗って走っていた。先頭の長男は前にいた歩行者と駐車中の軽ワゴン車を避けようと車道に出て、対向してきた当時68歳の女性の自転車と衝突。高齢女性は自分の自転車に取り付けていた傘を差す器具で胸を打ち、骨にひびが入って入院した。
小学生の長男が自転車で人にけがをさせるとは思いもせず、損害賠償保険には入っていなかった。「誠心誠意できることを」と、治療費を求められるたびに負担し、毎日のように見舞いに通った。
約1カ月後、高齢女性は退院したが、さらに「見舞金」として約50万円を請求された。当時、夫の仕事は不況のあおりを受け、女性もパートのかけ持ちで家計を支え、その金額は大きな負担だった。雨は降っていないのに傘を差す器具をしまっていなかった高齢女性の「落ち度」も感じ、話し合ったが決裂。大阪簡裁の民事調停に持ち込まれた。
仲立ちする調停委員から思わぬ指摘を受けた。「自転車の通行は左側が原則。おたくに支払い義務がある」。右側走行が道路交通法に違反していることを女性自身、知らなかった。車道走行が原則で、歩道は例外ということも。結局、治療費なども含め、計約80万円を支払うことになった。
長男に自転車を買った時、一緒に交通ルールを確認すべきだったと思う。事故を契機に、家族みんなで保険に入った。今も後悔とともに、自転車の無謀運転を見るたび「ルール順守の意識が低い」とやるせなさが募る。
今年8月21日、「銀輪の死角」キャンペーンで「自転車事故で高額賠償相次ぐ」という記事を読み、体験を思い起こして投稿した。子供と高齢者、「交通弱者」同士の不幸な事故。訪れた記者に「自転車は加害者になることがほとんどないと思っていた。みんなそうだと思う。だけど今は『加害者になることもあるよ』と言いたい」。そして、こう継いだ。「事故の補償は保険加入が義務づけられている車よりも解決が難しい。それを多くの人に知ってほしい」【馬場直子】
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毎日新聞 2010年11月7日 東京朝刊